【はじめに】
前編では、パワハラの法的定義について解説しました。
前編でも説明した通り、パワーハラスメントが成立するためには、3つの要素すべてを満たす必要があります。
① 優越的な関係を背景とした言動(抵抗や拒絶が困難な力関係を利用しているか)
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの(仕事上の正当な理由ややり方と言えるか)
③ 就業環境が害されること(働く人が本来の能力を発揮できないほどの支障が生じているか)
これらすべてを満たして初めて、法的なパワハラが成立します。
後編では実際にパワーハラスメントの相談があった場合、どのように対応すればよいのかを現場で陥りがちな失敗例を交えながら、解説します。
【まずは結論】
ハラスメント対応の成否は、入口となる窓口対応と、出口となる事実認定後の着地をいかに丁寧に進められるかで決まります。
そしてハラスメント対応のゴールは、単に白黒をつけることではありません。
相談者の納得感を得ること、職場環境を正常化させることにあります。
そのためには、相談者の話をきちんと聴く力と、事実を積み上げる調査の慎重さが必要です。
【解説】
従業員からハラスメントの申告がされる場面は、大きく分けて2つのケースがあります。
- 在職中の従業員: 配置転換や行為者への注意・懲戒処分など、環境改善の要望が主。
- 退職した元従業員: 職場を離れているため、謝罪や解決金などの金銭的な請求が主。
いずれの場合でも、会社が行うべき対応は、事実があったかどうかについて適切な調査を行うことです。
1. 相談窓口での対応:5つのポイント
相談窓口は、問題解決のスタート地点です。 ここで相談者が不信感を抱くと、不満が外部へ流出し、紛争が深刻化するリスクが急増します。
- プライバシーの徹底と場所の配慮
周囲の視線や声が届かない個室を用意します。
「相談についてのプライバシーは守られること」「相談内容を承諾なく、行為者に伝えることはないこと」 を最初に伝えてください。 - 不利益取り扱いの禁止を明言
「相談によって相談者はもちろん事実を述べた協力者に対しても不利益な扱いをしないこと」「行為者等による報復は禁止されていること」を伝え、心理的安全性を確保します。 - 個人的な意見を言わずに傾聴する
相談者の話を遮らずに最後まで聴きます。
「それはパワハラですね」といった同調も、「あなたにも非があるのでは」や「それくらい普通ですよ」等の行為者の肩を持つような発言も適切ではありません。
あくまで「あなたはそう感じ、そう捉えたのですね」と、相手の感情をありのままに受け止めることに徹します。 - 相談時のフォーマットを準備しておく
慣れない対応でも重要な項目を聞き漏らさないよう、あらかじめフォーマットを準備しておきましょう。
これが後の事実調査の基礎資料になります。 - 最終的な相談者の意向の確認
「行為者に謝罪してほしいのか」「配置を変えてほしいのか」「単に話を聴いてほしかったのか」など、相談者が何を求めているのかを早い段階で確認しておくことが、後の指標になります。
2. 調査段階でのありがちな失敗例~実務の落とし穴~
事実関係の調査について重要なポイントは、中立・公平を意識して行うことです。
調査においては、相談者と行為者に対して、できるだけ同じ扱いをすることを意識しましょう。
事実確認を進める際、現場で見られる失敗例を紹介します。
- 「とりあえず注意」で済ませ、事実確認の調査をしない
相談者の話を鵜呑みにして、事実確認をせずに上司を呼び出し口頭注意だけで済ませてしまうケースや相談者からの相談に対し、相談窓口の担当者が「その程度ではハラスメントに当たらない」と考えて調査をすることなく対応を終わらせてしまうケースです。
パワハラ指針において、相談があった場合、会社は事実関係を迅速かつ正確に確認することが義務付けられており、このようなケースの場合は義務違反となります。
また何が不適切だったのかを明確にしない場当たり的な対応は、相談者・行為者双方の反発を招き、同様のトラブルを再発させるおそれがあります。 - 進捗のフィードバックを行わない
調査に時間がかかっている間、相談者へ何も連絡をしないことは不適切です。
相談者は「放置されている」と不信感を募らせます。 - 相談者の資料を無断で行為者に見せる
相談者が提出した日記や録音データなどを、本人の承諾なく行為者に確認させてしまうことは厳禁です。
プライバシー侵害となるだけでなく、犯人捜しや報復を助長する危険な行為です。 - 客観的な証拠の確認を怠る
関係者のヒアリングを行ったにもかかわらず、メール履歴、チャットログ、業務日報などの証拠の確認を怠った場合、言い分が食い違う際、客観的な判断ができなくなります。
相談者・行為者双方に証拠書類がある場合には、それを提出してもらうように求めます。 - 行為者への注意喚起を怠る
調査中に新たなトラブルが発生しないためにも、相談者の承諾を得た上で、行為者に対して相談者からハラスメントの相談があったことを伝え、調査期間中も言動に気を配るように注意喚起しておくことや相談者への報復・被害の相談の取り下げるよう働きかけることを強く禁じることを念押しすることが適切です。 - 調査方法が相談者の要望に振り回される
相談者から「あの人から聴かないでほしい」「あの人からも聴いてほしい」といった要望を受けることがあります。
合理性があるものについては、調査の中立・公平を害さない範囲で、柔軟に対応する姿勢を見せることも必要ですが、公平な事実認定のためにも調査方法は会社が判断するものであり、必ずしも相談者の要望通りにする義務はないことを押さえておきましょう。
また、よくあるケースとして「行為者には伏せてほしいが、何とか解決してほしい」という矛盾した要望です。
この場合、以下のデメリットを丁寧に伝え、相談者の納得を得る必要があります。
①行為者の弁明を聴けない以上、事実認定が推測の域を出ない。
②一方的な情報だけでは、懲戒処分や強制的な配置転換などの法的措置をとることが困難になる。
相談者の恐怖心に寄り添いつつも、会社として対応(処分や環境改善)をするためには、適切な手順が必要であることを説明しましょう。
3. ヒアリングの順序
正確な事実を把握するためには、聴き取りの順番が重要です。
①相談者(被害者) → ②第三者(目撃者など) → ③行為者(指摘された側)
なぜこの順番なのか?
- 相談者から: 調査の対象となる具体的な言動や日時・場所を特定し、調査範囲を確定させるためです。
- 第三者へ: 当事者双方の言い分が食い違う前に、客観的な証言を固めるためです。行為者に知られる前に聴取することで、証言の歪曲を防ぎます。
- 行為者(最後): 揃った事実関係をもとに、本人の弁明を聴くためです。最後に聴取することで、矛盾点を指摘することができ、言い逃れを防ぐことができます。
4. 調査後、事実認定に基づく具体的な解決策
■ パワハラと認定された場合
調査の結果、パワハラが認定された場合は以下のような対応が必要です。
- 被害者(申告者)に対して
被害者が在職中の場合
加害者(行為者)の異動や懲戒処分等、職場環境の改善求めるケースが多いので、その要望に寄り添った対応を行う必要があります。
要望に応じて加害者と業務上完全に分離するか、少なくとも業務上の関わりを極力少なくすることを検討します。
具体的には席替えや配置転換、担当業務の切り分けなどの措置をとることになります。
被害者が退職している場合
職場環境の改善を求めるというより慰謝料等の金銭の請求がされるケースが多くなります。
調査によってパワハラと認定された場合は、会社から被害者に対し解決金の支払いを提示するといったことが考えられます。
その場合は被害者の主張する金額ではなく、過去の裁判例等を参考にし、それを基準に決めることが適切です。
- 加害者(行為者)に対して
加害者に対してはその悪質性に応じて懲戒処分を検討します。
処分は重すぎても軽すぎても双方の納得感を得られず、会社側がリスクを負う可能性があるため慎重な判断が必要です。
就業規則の懲戒処分の規定に則り、適切な処分を行います。
一般的な懲戒処分は下記の通りです。
- 譴責‥始末書を提出させ将来を戒める。
- 減給‥給与の一部カット(1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、総額が一賃金支払期の賃金総額の1/10を超えてはならないという労基法上の制限あり)。
- 出勤停止‥数日間の出勤禁止。
- 降職・降格‥役職を解く、または等級を下げる。
- 懲戒解雇‥制裁として一方的に労働契約を解除する。
※実務上のポイント
懲戒処分(特に重い処分)を決定する際は、過去に改善の機会を与えていたかという教育のプロセスが問われます。
一度の言動だけでいきなり重い処分を下すと、逆に会社側が処分の乱用を問われるリスクがあります。
また、個人的な意見ですが、懲戒処分としての降職・降格はおすすめしておりません。
あくまでも懲戒権ではなく、人事権としての降職・降格を検討するべきです。
なお当所で作成する就業規則においては、上記のとおり懲戒権の濫用(労働契約法第15条)を問われるリスクを考え、降職・降格は規定しておりません。
■ パワハラと認定されなかった場合
最も対応が難しいケースですが、「該当しなかった」で終わらせてはいけません。
- 相談者に対して
相談者が在職中の場合、相談者は今後も一緒に会社で仕事をしていく仲間です。
調査の結果により、相談者が反発したり、会社に居づらくなるようなことがあれば会社にとってマイナスのままで終わってしまいます。
まずは相談者が納得感を得られるように相談者の心情に理解を示しつつ、法的な観点からではパワーハラスメントとは言えないということを丁寧に説明することが重要です。
- 行為者に対して
法的にパワーハラスメントではなくても不適切な点があれば、法的にはパワーハラスメントとは言えないことを伝えつつも、行為者に指導方法の改善について注意を行い、その旨を相談者にも伝えます。
これにより相談者に対し、会社は真摯に対応したという納得感につながります。
また、相談者から行為者との業務上の接点をなくしてほしい等の要望があり、相談者の言い分や心情に理解できる部分があるときは、業務分担の見直しや席の配置変更を行い、双方が円滑に業務に戻れる体制を整えます。
【まとめ】
ハラスメント対応は、入り口である相談窓口ヒアリングを丁寧に進め、中立・公平を意識して調査を積み上げ、納得感のある出口をどう作るかで決まります。
- 窓口では中立を保ち、相談者の意向と安全を確保する。
- 調査段階では安易な注意で済ませず、客観的証拠を優先する。
- 認定時は段階的な処分を、未認定時は丁寧なフォローを行う。
これらを徹底することで、職場の信頼関係を再構築することができます。
この投稿が少しでもお役に立てたら幸いです。

