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はじめに
令和8年4月1日から、健康保険の扶養認定手続きにおいて、労働条件通知書が収入見込を証明する根拠書類として取り扱われることとなりました。
健康保険の扶養に入れるかどうかの判定は、本来「将来に向かってどれだけの収入があるか」という見込みに基づいて行われます。
今回の運用変更は、その判断の拠り所として、会社が本人に交付する「労働条件通知書」の記載内容を直接確認するというものです。
もし、通知書の記載が不正確で、あるいは働く時間の定めが曖昧であれば、従業員の家族の認定手続きが滞るだけでなく、後から遡って扶養認定が取り消される可能性があります。
改めて、労働条件通知書に何を記載すべきか、確認していきましょう。
労働条件通知書とは
労働条件通知書とは、労働基準法(第15条)に基づき、会社が従業員に対して「賃金や労働時間などの働く条件」を書面で明示する法律上の義務を果たすための書類です。
よく混同される「雇用契約書」との違いは、その法的な役割にあります。
- 労働条件通知書(通知)
会社が従業員に対して、一方的に労働条件を知らせるものです。
交付を怠ると労働基準法違反となり、会社には罰則(30万円以下の罰金)が科せられるリスクがあります。 - 雇用契約書(合意)
労使双方が内容を確認し、署名・捺印することで「双方がその条件に納得した」ことを証するものです。
万が一、後からトラブルになった際、有力な証拠となり得ます。
言い換えますと、「紛争を防ぐための書類」です。
労働条件通知書と雇用契約書の違いについて
| 項目 | 労働条件通知書 | 雇用契約書 |
|---|---|---|
| 性質 | 一方的に通知できる | 双方の合意が必要 |
| 罰則 | 交付しない場合は罰則あり | 交付しない場合でも罰則なし |
| 内容 | 決められた明示事項あり | 形式は任意 |
労働条件通知書は雇用契約書で代用できるのか?
可能です。
ただし、労働条件通知書の記載事項を網羅している必要があります。
労働条件通知書は一方的な通知書ですが、雇用契約書は労使双方が条件に合意したことを示す証拠として、後日の紛争予防にも有用です。
令和8年4月からは、給与収入のみの方など一定の場合、労働条件通知書等の労働契約内容が分かる書類が、健康保険の被扶養者認定における年間収入見込額の判断資料として用いられます。
会社が作成した書類の内容が、そのまま従業員の家族の手続きの可否を左右することになる、というのが大きな変更点です。
解説:労働条件通知書に記載すべき事項
労働条件通知書には、法律(労働基準法第15条)によって記載が義務付けられている項目があります。
1. 必ず明示しなければならない事項(絶対的明示事項)
以下の項目は、昇給に関する事項を除き書面(または本人が希望した場合はメール等)で交付しなければなりません。
- 労働契約の期間:期間の定めの有無、期間がある場合は更新の判断基準。
- 就業の場所と従事すべき業務の内容:入社直後の勤務地や担当業務と将来的な変更範囲
- 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇:始業・終業時刻、休憩、休日、休暇のほか、残業の有無。
- 賃金の決定、計算、支払方法、昇給:基本給、諸手当、残業代の計算方法、締め日と支払日。
- 退職に関する事項:退職の手続き、定年制の有無、解雇の事由など。
2. 制度がある場合に明示が必要な事項(相対的明示事項)
会社としてルールを設けている場合には、以下の項目も記載が必要です。(書面または口頭でも可)
- 退職手当(対象範囲、計算方法、支払時期)
- 賞与、臨時に支払われる賃金、精勤手当・勤続手当・奨励加給(能率手当)、最低賃金額など
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品などの負担
- 安全・衛生、職業訓練
- 災害保障及び業務外の傷病扶助
- 表彰、制裁(懲戒)の種類や事由
- 休職に関する事項
3. パートタイムの方や有期契約の方を雇い入れる時と契約を更新する時
上記にプラスして、以下の事項を書面で明示する必要があります。
【パート・有期契約の方すべて】
- 昇給
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 相談窓口(パートタイム労働者等からの相談に応じる窓口)
【有期契約の方のみ】
- 更新上限の有無と内容
- 無期転換申込機会、無期転換後の労働条件(無期転換申込権が発生する更新時)
実務上のポイント:通知書と契約書を「兼ねる」運用
法律上は「通知」と「合意」という別々の役割がありますが、実務上は、法定の明示事項を網羅した『労働条件通知書 兼 雇用契約書』の形式で、通知と合意を一体化して運用する例が多く見られます。
これにより、一度の手続きで「法的な義務」と「トラブル防止の合意」を同時に完了させることができます。
労働条件通知書のひな形について(東京労働局)
参考資料として厚生労働省 東京労働局のサイトで公開されている、労働条件通知書のテンプレート
【一般労働者用(常用・有期雇用型)労働条件通知書般労働者用(常用・有期雇用型)労働条件通知書】
を添付します。
法改正後の最新様式やWord形式のファイルについては下記のページをご参照ください。
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/hourei_youshikishu/youshikishu_zenkoku.html
なお、「自社仕様にカスタマイズした労働条件通知書」を作成したい場合や、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」を作成されたい場合はお気軽に当所までご連絡下さい。
迅速・丁寧にお力添えさせていただきます。
まとめ
- 労働条件通知書は、労働基準法で定められた全項目を漏れなく記載する「法定義務」です。
- 令和8年4月からは、この書類が「健康保険の扶養認定」の根拠資料となります。
- 実務上は「労働条件通知書 兼 雇用契約書」として、双方が合意する形をとる運用方法が多いです。
令和8年からの新しい運用に向け、まずは現在の通知書のフォーマットが最新の法改正に対応しているか、そして従業員からの求めに応じてスムーズに書類を作成できる体制が整っているか、今一度見直してみることをおすすめします。
この投稿が少しでもお役に立てたら幸いです。




この記事の執筆者
社会保険労務士事務所メインライン
”ここまでやるかと言わせたい!”
【元ホームセンター店長×実務経験7年】
20人未満の中小企業専門社労士です。
手続業務・給与計算・勤怠システム導入支援・退職金制度導入まで、「まるっと」お任せください。
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