【はじめに】
労働災害が発生した際、会社は管轄の労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」を提出しなければなりません。
この手続きにおいて、迷われるのが「労働者死傷病報告の休業日数の数え方」と「誰がどこに提出するのか」という点です。
「病院に行った当日は数えるのか?」 「下請け業者の社員がケガをした場合、元請けが出すのか?」
実は、労働者死傷病報告には、労災保険給付(休業補償)とは異なる独自のルールが存在します。
日数の計算を誤ると、提出すべき報告書の期日が変わってしまったり(休業4日以上か未満か)、提出義務違反を問われたりするリスクがあります。
この記事では、判断に迷いやすい日数カウントの事例や、建設・派遣業特有の提出義務者について解説します。
【まずは結論】
労働者死傷病報告における休業日数は、「負傷日の翌日」を起点として「暦日数」でカウントします。
ここが労災保険(休業補償給付)との違いです。 労災保険では、負傷当日の所定労働時間の一部でも休業すれば、その日を起点(待機期間の1日目)として数えますが、労働者死傷病報告では「災害当日は含まない」という点にご注意ください。
<具体例:治療後、翌日から出勤できた場合> 仕事中にケガをしてすぐに病院で治療を受け、その日はそのまま帰宅したとします。 もし、翌日から1日も休まず仕事に出られたのであれば、休業は「1日未満」となり、いわゆる「不休災害」となります。 この場合、労働者死傷病報告の提出対象にはなりません。
【解説】
具体的なケースをもとに、判断に迷いやすい事例を整理します。
ケース1:飛び石で休んだ場合
例えば、9/8に災害が発生し、以下のような出勤状況だったとします。
- 9/8(災害発生日):早退
- 9/9・10(火・水):休み(労務不能)
- 9/11(木):出勤
- 9/12(金):休み(労務不能)
この場合、休業日数は「3日」となります。
間に11日の出勤日を挟んでいますが、休業日数として連続しているかどうかは関係ありません。
実際に休業した日(9/9、10、12)を合計します。
ケース2:休業期間に「所定休日(土日)」が含まれる場合
労働者死傷病報告における休業日数の数え方で「休業を要する期間内に休日等が含まれる場合、労務不能の状態であれば、これを含めた日数が休業日数となる」というルールがあります。
例えば、以下の状況を見てみましょう。
- 9/8(月):災害発生
- 9/9(火):休み(労務不能)
- 9/10・11(水・木):出勤
- 9/12(金):休み(労務不能)
- 9/13・14(土・日):所定休日
- 9/15(月):休み(労務不能)
勤務日のうち実際に休んだのは3日間(9日、12日、15日)ですが、休業期間中に土日が含まれています。
医師の診断等により、この土日も「労務不能の状態」であったなら、日数に含めます。
したがって、このケースの休業日数は「5日」(9、12、13、14、15)となります。
この場合、休業4日以上となるため、遅滞なく(概ね1〜2週間以内)労働者死傷病報告の提出が必要になります。
ケース3:軽傷で、休日明けに出勤した場合
逆に、休日をカウントしないケースもあります。
災害発生日の翌日がもともと休日(土日など)で、その休日明けに問題なく出勤できたような場合です。
- 災害発生日の翌日が休日(土曜)、翌々日も休日(日曜)。
- 月曜日に問題なく出社。
この場合、休日の間も「就労不能状態」だったかが問われます。
軽傷で、翌日(休日)も「出勤しようと思えばできた(労務可能な)状態」であれば、就労不能による欠勤とは言えません。
結果として、休業日数は「0日」と整理されます。単に休日が続いて出勤がなかったからといって、自動的にカウントするわけではないのです。
ケース4:本人の希望等で「有給休暇」を使って休んだ場合
月曜日に災害が発生し、本人の希望により「有給休暇」を使って休み、土曜日(出勤日)に復帰したケースです。
※1日の所定労働時間が6時間40分の会社での例です。
- 9/8(月):災害発生
- 9/9(火)〜9/12(金):有給休暇を取得(労務不能)
- 9/13(土):出勤(通常の出勤日)
この場合、休業日数は火・水・木・金の「4日」となります。
たとえ給与が支払われている「有給休暇」であっても、労働災害によるケガ等が原因で就業できなかったのであれば、労働者死傷病報告上は「休業」としてカウントします。
このケースは「休業4日以上」に該当するため、遅滞なく(概ね1〜2週間以内)提出しなければなりません。
「有給だから休業ではない」と誤認して報告しなかったり、「休業0日」として扱ったりすると、「労災隠し(報告義務違反)」となります。
また、誤って休業4日未満の取り扱い(期間ごとにまとめて報告)で報告してしまうミスも多いため、十分にご注意ください。
【解説2】業種別・提出義務者と提出先(誰が・どこに)
休業日数の計算に加え、誰が報告書を提出すべきかについても誤解が生じやすい点があります。
特に建設業や派遣業では、「労災保険を使う会社」と「報告書を出す会社」が異なる場合があるため注意が必要です。
1. 一般的な事業(継続一括事業を含む)の場合
本社(親事業場)と支店(子事業場)を一括して労災保険の手続きをしている会社の場合でも、労働者死傷病報告のルールは異なります。
- 本社・指定事業場(親)で起きた場合
- 提出先:本社などがある地域を管轄する労働基準監督署
- 提出者:事業主
- 支店・営業所などの被一括事業(子)で起きた場合
- 提出先:その支店・営業所がある地域を管轄する労働基準監督署
- 提出者:事業主
2. 建設業の場合
建設現場では、下請業者の労働者であっても、治療費などの「労災補償」は元請の労災保険を使います。
しかし、「労働者死傷病報告」の提出義務者は異なります。
- 提出先(共通): 原則として、「工事現場の住所」を管轄する労働基準監督署。
- 元請けの労働者が被災した場合: 元請の事業主が提出。
- 下請けの労働者が被災した場合: 下請の事業主が提出。
注意点はここです。
保険給付の手続きは元請が行いますが、「事故の報告」は実際に雇用している下請事業者が責任を持って作成・提出する必要があります。
3. 人材派遣業の場合
派遣社員が被災した場合、派遣元と派遣先の「両方」で労働者死傷病報告を作成・提出する必要があります。
- 派遣元(派遣会社): 派遣元を管轄する労働基準監督署へ提出(提出者:派遣元の事業主)。
- 派遣先(実際に働いていた会社): 派遣先を管轄する労働基準監督署へ提出(提出者:派遣先の事業主)。
片方だけでは義務を果たしたことになりませんので、必ず連携して対応しましょう。
【重要】2025年からの電子申請義務化と罰則
・電子申請の原則義務化
2025年(令和7年)1月1日より、労働者死傷病報告は電子申請(e-Gov)が原則義務化されました。
これまでのような紙での持参・郵送ではなく、パソコンからの申請が基本となります。
あらかじめe-Govのアカウントや電子証明書の準備をしておきましょう。
・ 「労災かくし」は犯罪です
報告を提出しなかったり、虚偽の内容(休業日数を短く偽るなど)を報告したりすることは、「労災かくし」として50万円以下の罰金等の刑事罰の対象となります。
「労災かくし」については、労働基準監督署では、非常に厳しく対処しており、発覚した場合は、起訴猶予とはならず、労働安全衛生法違反容疑で送検されることがほとんどです。
【まとめ】
今回のポイントを整理します。
- 労働者死傷病報告の休業日数は、負傷日の翌日から暦日数で数える(当日は含まない)。
- 休業期間中の土日(所定休日)は、「労務不能」であれば日数に含める。
- 建設業の下請労働者の災害は、労災保険の申請は元請でも、報告は下請事業者が行う。
- 派遣労働者の災害は、派遣元と派遣先の双方が提出する。
正確な日数と提出先の把握は、法令遵守の第一歩です。
判断に迷う場合は、管轄の労働基準監督署へ相談することをお勧めします。
この投稿が少しでもお役に立てたら幸いです。

